炎症性腸疾患患者における新型コロナウィルス感染リスクについて 第1報

2020年4月7日

会員各位

新型コロナウィルス(COVID-19)の流行に伴い、免疫調整薬や生物学的製剤の治療を受けている患者さんや治療をしている実地医家の医師の方々のご質問や不安にお答えするために、現在までにわれわれが得ている情報を整理してお伝えいたします。
なお、ここで述べる情報は製薬企業に報告された事例、海外の学会等から公開された声明、発表された論文等に基づくものです。炎症性腸疾患(以下IBD)患者におけるCOVID-19感染事例はまだ集積されておらず十分な症例で検証されたものではありませんが、事態の緊急性と必要性を鑑みて公開するものです。したがいまして症例の集積に伴い内容が変更されることがあります。新たな情報が得られたときは逐次周知していく予定です。

本声明は日本炎症性腸疾患学会と厚生労働省難治性疾患政策研究事業難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班との共同作業として行われています。

2020年4月7日
日本炎症性腸疾患学会 理事長 渡辺 守
厚生労働省難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班 研究代表者 久松理一

1. 報告されている炎症性腸疾患患者におけるCOVID-19感染事例について

海外の状況

国際的なレジストリSECURE-IBD registryに登録された情報によりますと3月23日の時点で13か国から合計41人(クローン病22 人および潰瘍性大腸炎19 人)のCOVID-19感染を併発したIBD患者が登録されています。このうち10人が入院し、ヨーロッパの82歳のアルツハイマー病と心血管疾患を有するメサラジン治療中の患者と25歳のインフリキシマブ300㎎8週毎とメトトレキセート15㎎で治療されていた中等症から重症の潰瘍性大腸炎患者さんの2名が死亡しています。SECURE-IBD registryは公開されておりwww.covidibd.org.で最新の情報と患者背景など詳細を知ることができます1)。 なお4月6日時点でのデータでは世界で326例 (クローン病189例、潰瘍性大腸炎135例) の報告があり、日本からも1例報告されています。患者背景で注目すべきは患者年齢で80歳以上の13人のうち9人が入院し6名が死亡しています。なお上述した25歳の死亡例については現在のデータでは削除されているようです (20歳代の死亡数はゼロとなっている)。

国内の状況

各製薬企業に3月31日時点で報告されている情報*をお知らせします。
 インフリキシマブ (レミケード®) 国内報告事例なし
 アダリムマブ (ヒュミラ®)国内報告事例なし
 ゴリムマブ (シンポニ-®)国内報告事例なし
 ウステキヌマブ (ステラーラ®) 国内報告事例なし
 ベドリズマブ (エンタイビオ®) 国内報告事例なし
 トファシチニブ (ゼルヤンツ®) 国内報告事例なし
*上記は自発報告に基づくもので、これらの製品の投与例で実際にCOVID-19感染事例がないことを保証するものではありません。

2. 免疫調節薬や生物学的製剤による治療について

現在の段階では炎症性腸疾患の治療はこれまでと同様に行い、疾患活動性を抑えることが重要であると考えられます。免疫制御治療を受けている患者さんに関してはこれまで同様に感染症リスク対策が必要です。特にCOVID-19感染重症化リスクが高い高齢患者さんについては社会的距離を含めて注意をしていただきたいと思います。

以下、ECCO (European Crohn’s and Colitis Organization) のタスクフォースが公開した3rd インタビュー1) の内容を要約します。

高齢者あるいはCOVID-19感染のリスクとなる併発症を有しているIBD患者さんにおいて免疫調整薬や生物学的製剤を行うべきかどうかについて十分なデータはないものの現時点ではCOVID-19流行前と変わらず必要な治療を継続するべきである。いっぽう、高齢患者さん (特にフレイルを合併した患者さん) はCOVID-19流行前から感染症リスクが通常患者さんよりも高いことが報告されており、これについてはこれまでと変わらず考慮されるべきである。活動性の炎症自体が感染症のリスクとなりうる。また、現時点では患者を病院から遠ざけておきたいので、治療を続けることの利点は、現時点でIBD治療に伴うCOVID-19感染のリスクよりも大きい。高齢者を再燃から遠ざけること(場合によっては免疫調節薬や生物学的製剤を使用して)は次の2つの点で利点があると考えられる。1)COVID-19に感染するリスクを低下させる可能性、および2)COVID-19感染のリスクが高まる病院に患者が通院する必要がなくなること。
COVID-19感染では60歳以上の患者で致死率が高いことが示されており、80歳以上の患者の致死率は20%にもなる2)。 したがって、高齢のIBD患者は、特に免疫抑制の場合は、社会的距離の厳格化を含め地方/国の保健当局によって推奨されるすべての予防策を講じる必要がある。

3. COVID-19に感染したIBD患者のレジストリについて

120ヵ国が参加しているレジストリSECURE-IBD (www.covidibd.org) が存在します。国別の報告など詳細な報告を得ることができます。ぜひ日本の先生方もご協力をお願いします。 なお、日本のレジストリに関しては難治性炎症性腸管障害に関する研究班で準備中ですので、追ってご報告させていただきます。

引用文献

  1. https://ecco-ibd.eu/images/6_Publication/6_8_Surveys/3rd_Interview_COVID-19_ECCO_Taskforce_published.pdf
  2. Onder G1, Rezza G2, Brusaferro S. Case-Fatality Rate and Characteristics of Patients Dying in Relation to COVID-19 in Italy. JAMA. 2020 Mar 23. doi: 10.1001/jama.2020.4683.
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